日本新工芸について
鑑賞の手引き
陶器は山から直接採掘した粘土を原料とし、成型、焼成したものである。一般に素地は耐火性が強いため、焼け締まりが弱く、したがって吸水性があって不透明である。唐津・萩・益子・信楽・越前・常滑・瀬戸・丹波・薩摩など、地方名によるもの、又、志野・織部・黄瀬戸・天日等、釉薬の種類によるものなど、さまざまな技法がある。展示されている作品には、このような伝統的手法を踏まえ、独自の創意を盛り込んだ個性的なものが多い。
磁器は粘土、長石、珪石等が天然に混じった陶石を微粉砕し、水を加えて粘土状にしたものを成型する。その特徴は、主として素地は白く、半透明で、陶器にくらべて硬く、吸水性がなく、叩くと金属音を発する。代表的な磁器には、染付・青磁・青白磁等がある。
漆の樹から採取する樹液が“漆”である。精製された漆は、堅牢で美しい天然の塗料であり、同時に優れた接着剤である。この二つの性質を最大限利用して漆工芸品がつくり出される。漆工芸は、木、竹、紙、布、皮、金属、陶器などを素地として、これに塗装と加飾を施す。古来、素地に木材を使うものを木胎、竹を籃胎(らんたい)、紙を一閑張(いっかんばり)、皮を漆皮(しっぴ)、布を乾漆(かんしつ)、金属を金胎、陶器を陶胎と称する。主な種類は、髹漆(きゅうしつ)、蒔絵(まきえ)、彩漆(さいしつ)、螺細(らでん)、平脱(へいだつ)、彫漆(ちょうしつ)、蒟醤(きんま)、存清(ぞんせい)、沈金(ちんきん)等である。
金属工芸品を大別すると、彫金、鍛金、鋳金の作品に分けられる。
彫金
彫金は金属表面に宝で文様を彫ったり、透したり、他の金属を嵌めたり、レリーフとして打ち出したりして加飾する技法である。その技法の中には、毛彫り、蹴彫り、片切彫り等がある。
鍛金
鍛金の技法を大別すると、鍛造技法、鎚起技法、絞り技法である。鍛造は、赤熱された鉄材を鎚で展伸して形成する。鎚起の技術は、打ち上がった地金を木型の中に打ち込み椀状にし、次に金床の上で鎚打し、成型して行く。絞り技法は材料を当て金に当て、金鎚で鎚打して絞り込みながら成型する方法である。
鋳金
熔解した金属が注ぐ容器、即ち鋳型通りに固まるということを用いたのが鋳金技法である。はじめから金属を加工するのでなく、木、粘土、石膏、蝋等で原型をつくり、これをもとにした鋳型に熔解した金属を鋳込むのである。
現代の染色工芸は素材、技法共多様化している。防染方法では蝋染め、糊染め、絞り染めの三つに大別出来る。蝋染めは蝋を防染に用いる方法であり、糊染めは東洋独特の染めで、手描き染めと型染めに分けられる。絞り染めは全世界的に分布している古来よりある技法である。最近、染めの基本になる染料の色数もふえ、さらに技術も複合的になり、各人の独創性がみられる。
織る、組む、編む、といった技法から生れる平面のものから、立体風の構成による生活空間を満たす造形のものなど、芸術性を含めて幅広い制作がみられる。
現在、竹工芸に用いられている竹は、真竹、女竹、黒竹、寒竹など20種類ほどである。籠の編み方は、六ツ日編みである亀甲編み、四ツ目編み、亀甲編みをくずして三角編みにした鱗編み、あぜくら組など。編み上ったものを植物染料により着色することもあるが、漆を用いてすることが多い。
木工を技法的に分けると、指物、立体彫、浮彫、透彫、挽物、木象嵌、曲物などがある。木芸は、その硬さや色、木目など木の持つ特色を生かし制作されている。
七宝は主として金属素地にガラス質の釉薬を800℃前後で焼きつけながら装飾する技法のひとつである。技法では「有線七宝」と「無線七宝」があり、使用する釉薬も、不透明、透明、半透明釉、又、金属素地に彫金あるいは切り透しなどの加工をして、釉薬を焼付けるなど、技法は多様である。
現代の革工芸は、革のもつ強靭性、柔軟性、弾力性等の持ち味を生かし、染色、切る、よる、編む、レリーフ等さまざまな技法が駆使されている。
ガラスは、珪砂、丹鉛、ソーダ、カリ、アルミナなどの原料を1300℃前後の熱で溶かし、成型、加飾する。成型、加工法により、吹きガラス、型ガラス、カット・ガラスに分けられる。このうちカット・ガラスは、いったん出来上ったガラス素地に、二次加工する方法である。種々の色ガラスは、ガラス工芸を一層華麗なものにしている。
和紙の原料は、楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)が主に使用されるが、製法は、「溜漉き」と「流し漉き」の二種類がある。本展出品の和紙工芸は伝統ある技術を生かし、楮の繊維に着色し、具象あるいは、抽象的な模様を構成し、絵画では見られない紙工芸の特色を表わしている。
人形は素材的に多様で、土、木、紙、桐塑、布などが自由に用いられる。これは、使用している材料や使用目的で分類されている他の工芸と大きく異なる。今日では、金属やプラスチックなど色々な材料が使用される。
切金(きりかね)は裁金とも書かれる。金銀箔を火熨斗(ひのし)で数枚貼り合わせたものを竹の刀で細く切断しそれを筆につけた膠水(にかわみず)で貼りつける加飾技法である。また、箔を細かくした物を砂子(すなご)といい切金と併用される。これらの技法は元来、白木の仏像や装飾経の料紙などの装飾に用いられた。今日では現代に即した工芸表現が工夫されている。